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平成25年ホームカミングデイに参加して
― 北村惣一郎先生講演会 ―


 第7回広島大学ホームカミングデイ霞部局合同企画講演会が、平成25年11月9日に霞キャンパスで行われました。
 今回は奈良県立医大第3外科(心血管外科)教授から国立循環器病センター総長になられ、現在、堺市立病院機構理事長の北村惣一郎先生が「再生医療と人工臓器」という題目で講演をされました。
 今回、先生の講演会に参加して参りましたので報告いたします。
 先生のお話は4部で構成されていました。

1. 現代の心臓外科治療の変遷

 はじめにご挨拶をされましたが、先生はお父上が海軍士官であったため呉のお生まれでとのことです。循環器病センターでは、多くの広仁会出身者と共にお仕事をされたとのことです。
 日本の高齢化率は激しく世界でトップです。高齢者は全体的に弱く免疫力も低下しているため、侵襲の大きな心血管外科では、出血をさせないように、輸血をしないように、低侵襲で治療が終了するように工夫がなされてきました。
 検査も高速CTやMRIの進歩で低侵襲で検査が出来るようになり、最近ではカテーテル治療は冠動脈病変治療以外にも、ステント人工弁挿入や大動脈瘤に対するステント挿入などもできるようになり、天皇陛下の内胸動脈グラフトを採るのにも活躍した、大きな創を開けないダヴィンチなどによるロボット手術、人工心肺を使用しないポンプオフ手術など低侵襲でできる範囲が広がってきました。
 ちなみに、天皇陛下の狭心症手術に際しては、ステント治療は再狭窄率も高く、より永続性の高い動脈グラフトによるオフポンプバイパス手術が選択されたとのことです。

2. 電気生理学的治療の進歩
 電気で動いているのは心臓と脳で、脳の分野でも、うつ病の患者さんや、脊損の患者さんの脳表面に電流を流して治療し、うつ病を改善させたり、脳性麻痺の方が少し歩けるようになったりするような事例の臨床研究が米国でなされているとの事でした。
 ペースメーカーなどの医療機器はほとんどが米国製で、米国はどんどん機械を研究しているのに、日本では大学病院が独法化して通常臨床をやり、このような研究をしている所が少く、ランダマイズドスタディができにくい日本人の国民性も、この領域の進歩に遅れをとっている理由だと述べられました。

3. 再生医療の進歩
 現在本邦では先進医療として、培養膝軟骨細胞による変形性膝関節症治療や、熱傷に対する培養皮膚を用いた治療、拡張型心筋症に対する骨格筋由来の心筋シートなどがなされています。
 米国では培養したCkit陽性心筋幹細胞を心筋梗塞患者に冠動脈経由で注入し心筋が形成されないか、ランダマイズドスタディが行われている。
 まだ結果は出ていないが、他にも少しでも可能性があれば色々な再生医療のランダマイズドスタディが、すぐなされている。
 今後究極は、山中教授の発見したIPS細胞を使った心筋細胞作成と思われる。その他の研究では動物や死んだ人の臓器にIPS細胞を注入し臓器の自己化、再形成をさせるなどといった研究もある。
 また、現状では倫理上の問題もあるが、動物の受精卵とヒトのIPS細胞を使って、動物の中で移植用のヒトの臓器を作らせるという研究もある。

4. 人工心臓と心臓移植の現状
 我が国の心移植例は累計約200例で成績は世界的にみると良い方です。
 しかし本邦では年間約30例と数が少なく、移植待機が約250人とのことです。埋め込み式の完全人工心臓を入れておられる方が本邦で約250人、米国では2万5千人ぐらいいます。
 最近は人工心臓の出来も良く、米国ではランダマイズドスタディがなされ、心臓移植と完全人工心臓埋め込みは3年生存率、コストとも同等とのことです。
 米国のランダマイズドスタディのエビデンスがある人工心臓が本邦でも8割のシェアで、もっと日本でも大学等がランダマイズドスタディをしないといけないとのお話でした。

5. 終わりに
  我が国では平均寿命が延びて世界トップクラスですが、今後理系の地位向上がなされると寿命が更に伸び、2040年に100才、2080年に200才?という試算があります。これに対し理系が優遇されなければ2080年に120才と言われています。
 霞キャンパスの皆さんにも、もっと研究できる環境を国に作って頂きたいとのお言葉を頂き講演を終了されました。

広報担当 山東敬弘(昭和58年卒)