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平成28年ホームカミングデイに参加して
―広島大学大学院理学研究科 分子遺伝学研究室教授 
山本 卓(やまもとたかし)先生講演会―


 平成28年11月12日(土)霞祭の日に、霞キャンパスで第10回広島大学ホームカミングデイ霞部局合同企画講演会が行われました。今回は広島大学大学院理学研究科分子遺伝学研究室教授の山本卓先生を招聘し、「ゲノム編集とはどんな技術なのか?〜治療や品種改良での大きな可能性〜」と題してご講演をされました。先生の講演会に参加して参りましたので報告いたします。

1. はじめに
 生物の遺伝情報は、その細胞核内にAGCTの塩基がヒトで約30億個つながっている2重らせん構造のDNAの中に入っています。ラセンを伸ばせばDNAは2 m位の長さになると言われていますが、その全てが遺伝子ではなく、所々に断片的に遺伝情報が入っており、全DNAの数%しかありません。ゲノムとは遺伝子全体の情報のことを指します。私は2008年よりゲノム編集技術の研究を始めました。元々、ウニの研究をしておりウニの遺伝子を変えたいと思った時に、どうしてもゲノム編集技術が必要でした。

2. ゲノム編集とは
 AGCTからなる塩基配列が、ある特定の並び方が出たときにそのDNAを切断する制限酵素を用いて、色々な生物のDNAを狙った部位で切断します。その切断部位が修復される過程で塩基配列の変更が起こり遺伝情報が変化します。また切れた所に別の遺伝子を入れ、遺伝子組み換えをすることも可能です。ただ従来の遺伝子組み換えと異なるのは、従来の遺伝子組み換えはDNA切断を放射線や紫外線照射などで行うため、DNAの色々な所に変化が起きて確実性がなく、偶然できるような手技であるのに対して、ゲノム編集では狙ってDNAを操作できるという点です。現在使用可能なDNA切断のための酵素のシステムは、第1世代で私がウニの研究に用いたZFN (Zinc-Finger Nuclease)、現在当教室で数多く使用している第2世代のTALEN (Transcription Activator-Like Effector Nuclease)、開発者がノーベル賞候補にもなっている、現在世界で数多く使用されている第3世代のCRISPR/Cas9 (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats/CRISPR Associated Protein 9)があります。米国、中国ではこのCRISPR/Cas9を使って、盛んに農作物などで研究して特許を取っています。当教室では私達が第2世代のTALENを高効率に改良したPlatinum TALENを使ったゲノム編集の研究を数多く行っていて多数特許も持っています。ゲノム編集技術を使ってできる例としては、ヒトの遺伝子を動物に入れて疾患の研究をしたり、HIV患者さんから採ったT細胞に、HIVが感染する時に必要な遺伝子を壊してまた体内に戻すとHIVに感染しないT細胞となり、これが免疫不全となるのを防ぐというHIVの治療や、血友病Bの治療に応用されています。また、微生物の改変を行って次世代のバイオ燃料を作る研究や、牛のある種の遺伝子を破壊すると筋肉隆々の牛ができたり、トマトのある遺伝子を壊すと、甘くなったり腐りにくくなったりするトマトが作製できたり、マシュルームを放置すると黒ずむのを、ある遺伝子を壊すと黒ずまなくしたりできます。

3. 広島大学理学部分子遺伝学研究室での研究
 現在当教室で行っている研究や、他施設や産学共同研究としては、広大医学部第一内科の茶山教授と共同で、B型肝炎ウィルスを破壊するようなベクターを作る共同研究を藻類で行っています。大阪大学と共同でジャガイモの芽が出るとできる毒素のソラニンを出すのに必要な酵素をゲノム編集で潰して、ソラニンが出ないジャガイモを作製しました。また日本ハムと明治大学と共同でミオスタチンを破壊した筋肉隆々豚の作成、クロマグロの養殖で水槽に衝突して死ぬのを防ぐ、おとなしいマグロの作製や、マツダと共同で微生物の改変をして次世代のバイオ燃料を作る研究等を行っています。

4. ゲノム編集の世界の情勢と日本の立ち位置
 現在、世界のゲノム編集技術は能力の高い第3世代のCRISPR/Cas9を使った研究が沢山なされており、外国が特許を次々取っています。日本はやや遅れており、農作物系でどんどん資金を投入している米国と中国がかなり先行しています。最近、中国でヒト受精卵を使って遺伝子編集をした研究報告がなされ、これはdesigner babyにつながることでもあり、国際会議では倫理的にすべきでないと言われていますが、陰でそこまで行っている所もあります。我々は2016年4月にゲノム編集学会を広島で立ち上げ、広大や阪大、東工大や産学協同で使うゲノム編集の技術を公開し、誰もが自由に使える様にして日本でのゲノム編集の進歩を目指しています。

 以上簡単にご報告申し上げましたが、我が広大発で世界的にも先進的な研究と、更に日本全体の研究が進歩するような活動もしておられ、スケールの大きな方の、大変興味深いお話でした。

広報担当 山東敬弘(昭和58年卒)