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 現在、我が母校広島大学医学部でどんな活動がなされているのかを知り、勉強する機会を得ようという目的で、平成26年度から、「広島大学・異分野3教授に聞く、最新医学の分かりやすいお話〜広大は今、最新医学が分かる20分レクチャー〜」と題して、総会の際に3名の教授にミニレクチャーをして頂く事になりました。



平成26年度の講義(H26.5.17)

広島大学 原爆放射線医科学研究所
ゲノム障害病理研究分野教授 東幸仁(ひがしゆきひと)先生 (昭和63年卒)
 先生は閉塞性動脈硬化症(ASO)、バージャー病に対しての血管再生医療の研究をされており、「血管再生医療:現在、過去、未来」と題して、自家骨髄幹細胞移植や超音波刺激による、血管増殖因子を介した治療のお話をされました。
 現在、広大を始め19施設でASOに対して自家骨髄幹細胞移植を先進医療として行っておられます。
 バージャー病では非常によい効果がありましたが、ASOでは糖尿病、透析等を合併している例が多く、生存率が良くありませんでした。自家骨髄幹細胞移植はmesenchymal stem cellが内皮細胞に分化して効果を発揮すると予想されていましたが、入れた細胞は早期に死滅し、サイトカインを介した効果だという事が判明しました。
 また細胞治療以外に、超音波を血管に当てて血管増殖因子、転写因子などを出させて、治療するという治療を協同研究されており、PGC1αという転写因子が血管増殖因子を増やす事を発見されました。
 現在、超音波治療の機械を開発し全国治験を行っているとの事でした。更に次の課題としては、原医研の人間として、緊急被曝再生医療体制を構築する事を考えておられるとの事でした。
 先生のご研究の、ますますのご発展を祈念いたしております。

広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 総合健康科学部門 
腎泌尿器科学教授 松原昭郎(まつばらあきお)先生 (昭和60年卒)
 松原先生は、「ここまで来たロボット外科手術〜その現状、課題と将来展望」と題して、広大病院に2010年本邦で6番目に導入された、ダヴィンチという手術ロボットを用いた前立腺癌手術のお話をされました。
 当時の越智光夫病院長が教授会で、「病院の目玉となる買い物が何かないか。」と聞かれた時に松原先生が小さい声で、「ダヴィンチだと思います・・・」と答えられたそうです。越智先生の「それは何だ?いくらするの?」との質問に、松原先生が内容を説明し「3億円です。」と答えると、越智先生に「お前バカか!」と言われたそうです。しかし数週間のち、越智先生から「買うことにしたぞ!」とのご英断があったそうです。
 ロボット手術の利点は、従来の腹腔鏡下手術に比して、拡大された高解像度の立体視ができるモニターにより、神経血管温存が行いやすくなった事と、鉗子やハサミに関節機能が付いており、自由に先端を曲げる事ができ、狭い部位でも正確な手術が可能となった事です。
 また、フィルタリングという手ぶれ防止機構が付いた事で、より正確な手術が可能となり、直感的な操作が可能となっております。術者も座ってできるので疲労感も格段に軽くなっています。
 現在、広島大学では、前立腺癌に対してダヴィンチによる前立腺全摘を神経温存で行っており、症例数も徐々に増えて、本年は135例になる見込みとのことでした。その他、膀胱・腎手術、呼吸器、消化器、婦人科手術にも使用されています。
 症例数が増え、広大病院は全国で5番目の症例見学施設に認定され、全国から見学者が来られているとの事でした。洗練された手術手技のビデオに会場から歓声が上がっていました。新しい機器を使用しての、ますますのご発展を期待しております。

広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 応用生命科学部門 
消化器・代謝内科学教授 茶山一彰(ちゃやまかずあき)先生 (昭和56年卒)
 ウィルス肝炎治療の研究がご専門の茶山先生は、「C型肝炎の最近の治療」と題して、特に難治性のgenotype 1b、高ウィルス量の症例の治療の進歩についてお話をされました。
 C型慢性肝炎に対する抗ウィルス療法は1992年にインターフェロン(INF)単独療法で始まり、その後PEG-INF+ribavirin療法へと発展しました。
 日本のC型肝炎には、genotype 1bと2a、2bがあり、それぞれ低ウィルス量と高ウィルス量に分類されます。2型の症例や、1b型でも低ウィルス量のものは比較的治りやすく、この療法で80%以上が治って(ウィルス陰性化:SVR)いました。
 しかし、日本のC型肝炎のうち50%を占める1b型高ウィルス量のものは、初期のINF単独療法で7%、PEG-INF+ribavirin療法(48w)で44%のSVRとなりやや進歩はしましたが、まだまだ不十分でした。
 現在はPEG-INF+ribavirin+プロテアーゼ阻害剤(第1世代のテラプレビルや第2世代のシメプレビル)療法が認可されており、PEG-INF+ribavirin+シメプレビル療法では80%以上のSVRが得られています。
 更に進化した、NS5A阻害剤+第2世代プロテアーゼ阻害剤が治験中で、近々発売になる予定です。これは内服薬だけで84.7%のSVRとの事でした。しかし効かなかった人には耐性のウィルスができます。
 更に将来は、NS5A阻害剤+ポリメラーゼ阻害剤による治療が、治験で90%近い治癒率との事です。しかし、将来多剤耐性のウィルスができるのではないか、という危惧もあるとのお話でした。