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 「広島大学・異分野3教授に聞く、最新医学の分かりやすいお話〜広大は今、最新医学が分かる20分レクチャー〜」



平成29年度の講義(H29.9.23)

医歯薬保健学研究科 統合健康科学部門 公衆衛生学  
烏帽子田 彰教授(昭和54年卒)
「健康と食 〜食の課題・食に回帰〜」
 公衆衛生領域は健康確保の最重要事項として“栄養及び公衆栄養領域”を位置づけた。Thomas McKeownは健康確保及び疾病予防等に“栄養の改善等が必須である(1977)”と提唱し、引き続き指示根拠をFranz J. Ingerfinger(New England Journal of Medicine編集主幹)が示した。
 現代の“食”には、主要ミネラル及びヴィタミン成分の摂取不足等の思わぬ落とし穴がある。これらは神経伝達物質やホルモン生成に関与する酵素活性を高めるなど人間の生命活動維持に必須とされているにも拘わらず、誤った一般認識(名目上摂取/食品成分表に基づく計算値上は満たされている)と大きく掛け離れた事実(実測値/極めて不十分な摂取状況)である。即ち、栄養成分表に基づく計算値で算出された素材そのものをすべて食する訳ではなく、現実は調理・調製・加工で大きく逸失等する。今後の子供達や高齢者の健康を確保するうえで解決すべき喫緊の課題として話題としたい。

医歯薬保健学研究科 応用生命科学部門 脳神経外科学
栗栖 薫教授(昭和56年卒)
「情報統合型手術室 SCOT(Smart Cyber Operating Theater)の紹介」
 広島大学病院に、「情報統合型手術室 SCOT(Smart Cyber Operating Theater)」が2016年4月に日本で初めて導入された。2大コンセプトは「パッケージ化」と「情報管理」である。従来は様々な手術機器や医療情報がstand aloneに存在していた。それらの重要な情報を、ミドルウェアを介して全て一つのプラットホームに集めて、「一元管理した時間軸が揃ったデジタル情報」とし、大きな「4Kのモニター画面上」に「見える化」した。これにより、オペ室の中にいるスタッフ全員の情報共有が可能になり、より安全で正確な外科治療が可能になるようにした。
 さらに、広島大学独自の方法として、麻酔がかかった状態での術中MRIの撮像のときでさえ、最低限の生体情報、麻酔を安定させるために微量注入器の制御、などを、有線のシステムを使用せず、無線LANの環境下で行うことにより、撮像に関してもartifactが殆ど無い綺麗な画像も撮像可能とした。ここまで徹底しているシステムは広島大学版SCOTが世界初であり、まずは脳神経外科疾患から始め、適応を拡大していく予定である。

総合内科・総合診療科 学習院臨床医学内科系ユニット総合診療医学
田妻 進教授(昭和55年 山口大学卒)
「肥満とがんの関わり 〜そのメカニズムと対応策〜」
 “肥満と発がん”の関わりが注目されています。肥満男性では肝がんや膵がん、肥満女性では子宮がんや腎がんによる癌死リスクを報告した疫学研究(NEJM 2003;348:1625)と、そのメカニズムとして過剰な脂肪摂取による肥満が老化関連分泌形質(SASP)を介して発がんを誘起することを報告した基礎的研究(Nature 2013;499:97)により、その関心は高まっています。
 当教室では脂質・胆汁酸代謝異常に伴う横断的疾患の基礎と臨床に取り組んでおり、その中で変性脂質(=胆汁リン脂質分解産物)や二次胆汁酸がSASPを介して胆管上皮傷害に伴う胆管病変=“コランギオパチー”を誘起することを明らかにし(JHBPS 2014;22:675)、変性脂質による“腫瘍性コランギオパチー”を提唱しています。 本講演では、肥満とがんの関わりについてSASPを介する発癌プロセスを交えて解説するとともに、腸肝循環を営む胆汁酸と脂質の変性が誘起する“腫瘍性コランギオパチー”を紹介し、現時点で可能な対応策を提案したいと思います。


 3名の教授の先生方にはご無理を承知のうえで、20分という短い時間に凝縮した素晴らしいご講演をお聞かせいただきました。まさに現在、広大で行われている研究と最新の話題を伺うことができ、非常に有意義な時間を過ごすことができました。改めましてご講演いただきました先生方に心から感謝を申し上げます。